〜素人がインストラクターにまでなった話vol.1〜
※これからのお話は、私がダイビングスタッフとして働いていた、2005〜2010年頃のダイビング業界の事情や体験談である。2017年現在のダイビング業界とは大きく異なるので、「昔はそうだったのか」という気持ちで捉えてほしい。
皆さんが想像するダイビングショップのスタッフとは、どんな人だろうか?経験豊富なインストラクター。スキルが抜群なイ
ンストラクター。とにかくトークが面白いインストラクター。様々なタイプのインストラクターがいるが、当然ながら、下積み時代を経て、ショップの顔ともなるインストラクターに成長する。では、そんな人たちのスタートはどうだったのか?実は体験ダイビングすらした事がない人が意外にも多い。かく言う私もその1人だ。周りのダイビングショップのスタッフ達も、6割程が全くの未経験で、残り4割が体験ダイビングの経験者だ。中には、体験ダイビングや趣味でダイビングを始めて、転職する人もいるが、かなりレアなケースである。
そんな人達の共通点は少なくとも2つある。1つは、海が好き。もう1つは、プラス思考の持ち主。ダイビングインストラクターでマイナス思考のインストラクターは、私が知る限りではいない。水中という特殊な環境下での遊びなので、マイナス思考だとストレスダイビングで水中世界を楽しむどころではないだろう。ちなみに、ダイバーの大多数はプラス思考の人が多いように思う。
ダイビングショップに入って直ぐの研修で、業界の基本的な事、営業方法、ダイビング器材、ライセンスについて学ぶが、兎にも角にも、まずは初級ライセンス取得が最初の仕事となる。もちろん、会社負担。仕事の前に、自分がダイビングを楽しめるか?を見極めるのだ。
初級ライセンスは、学科講習、プール講習、海洋実習の3パートに分かれる。学科講習は、ダイビングの基礎知識、初歩のトラブル対処、特殊な環境下でのリスクについて学ぶ。プール講習は、実際に器材を装着して、初めて水中で呼吸の練習をしたり、簡単なトラブル対処のスキルを学び、無重力空間を体験し、早く本番の広い海の世界に行きたくなる。海洋実習は、プール講習のおさらいと、どこまでも続く素敵な海中世界に踏み込む事になる。私はたまたま、海洋実習の日取りと入社時期のタイミングが重なったので、いきなりの海洋実習だった。
私の初めての海洋実習は散々で嫌な思い出しかない。今となっては笑い話だが、「マスククリア」が全くと言って良いほど、できなかった。マスククリアとは、マスクの中に入った水を水中で抜く、基礎中の基礎スキルだ。ダイビングは浅い水深5〜7mで潜ることもある、ボートダイビングなら水深20m前後がほとんどだ。ダイビングは深くなればなるほど安全に慎重に浮上しなければならない。海水浴の様に気軽に海面には上がれないのだ。そういった時に必要な基礎スキルに私はつまづいたのだ。私は15年ほどコンタクトレンズ生活で、水中で眼を開けたことがない。水中で眼を開けるという恐怖との闘いだった。通常の人なら1分もかからないスキルに、私は15分ほどを費やしてもできず、初日の海洋実習が終わり、マスククリアが課題となった。
できる人にはなんて事のないマスククリア。でも、できない人にとっては苦痛そのものでしかないマスククリア。では、私はどのように克服したのか。それは、洗面台やお風呂に水を張っては、眼を開けて顔をつける!ただ、これだけだ。恐怖を克服するには、慣れと自分は大丈夫という自己暗示しかない。眼を開ける事に慣れてきたら、浴槽で頭まで浸かって、マスククリアの反復練習。そして、2回目の海洋実習では、問題のマスククリアも無事でき、その他のスキルも難なくクリアし、初級ライセンスを取ることができた。この時のプレッシャーやストレスから解放された瞬間に見上げた水面が、人生の中で1番綺麗で輝いていた。この瞬間にダイバーデビューできた!と実感した。それ以来10年経っても、ダイビングで1番好きなものが「太陽の光」ということは変わっていない。
Safe Diving, Enjoy Diving!!
次回、「ショップスタッフのダイビングのお金事情ってどうなの?」に続く。