遥々、飛行機に乗ってダイビングにやって来た!となれば、1本でも多くの経験を積み、飛行機の搭乗時間ギリギリまで潜っていたい!と思うのがダイバーの心情だ。しかし、すでにダイバーの人は、ライセンスを取得する際に、ダイビング後の飛行機の搭乗についての注意点は学んでいるだろう。今回は、楽しいダイビングライフを送るために、ダイバーが注意しなければならない減圧症について復習を兼ねて語りたい。また、これからダイバーを目指す方も、講習を受ける前の予習として役立てて欲しい。
ご存知のとおり、ダイビングで使用するタンクの中身は、酸素だけが入っている訳ではない。タンクには窒素も含まれる空気を圧縮したものが入っており、ダイビング中はこの圧縮空気を吸うことになる。通常、窒素は空気中の約78.08%を占め、口・鼻から肺へ、そして肺から血液中に取りこまれる。地上にいる場合には、何ら問題はないが、窒素は潜水深度が深いほど、また潜水時間が長いほど、血液中に溶け込みやすくなるのである。余分な酸素は、血液中から抜け落ちるが、窒素は抜け落ちるまでに時間を要し溜まっていくのである。
このように、窒素が体内に溜まった状態で、浮上速度を守らず急浮上した場合、血液中に取りこまれていた窒素が溶け込んだ状態を維持できなくなり、気泡化してしまうのである。つまり、水圧により血中に溶け込んでいた窒素が開放されてしまうのだ。気泡化し膨らんだ窒素は、血管を圧迫・閉塞させ、神経を圧迫して痛みを伴うといった症状が現れる。これが減圧症である。そのため、ダイビングでの急浮上は最も厳禁なのである。例え、多量の窒素が溶け込んでいても、浮上速度が十分(ゆっくり・遅い)であれば、気泡化は起こらず、減圧症が発症することもない。
ダイビングには、浮上速度を守った上で、尚かつ、水面に浮上する前に、水深3mから6mで3分~5分以上の「安全停止」をすることがルールにある。水深が浅くなるにつれ、窒素は排出されていくが、窒素は体内に蓄積される時間より、排出される方が時間を要するからだ。また、仮に気泡化した窒素があるならば、少しでも多く排出することが重要だ。そのため、一定の水深に留まり窒素の排出時間を稼ぐ必要である。これが「安全停止」する理由なのだ。
減圧症の予防には、浮上速度を守るだけではなく、ダイビング後の飛行機の搭乗時間までの時間を十分に取ることが必要になる。ダイビング後、体内から窒素が完全に抜ける時間は18時間から24時間とされている。例えば、PADIの「潜水後の飛行手順」には、単一ダイビング(1日に1ダイブ)の場合は、搭乗時間の12時間前に浮上していることが推奨されている。また、反復ダイビングや数日間にわたるダイビングの場合は18時間前に浮上していることが推奨されているのだ。
このように搭乗時刻までの待機時間が必要になるには理由がある。飛行機に乗った際、飛行高度が上がるにつれて、ペットボトルやスナック菓子の袋がパンパンに膨張しているのを見た経験はないだろうか。これと同じ原理で、体内に残っている窒素があると、窒素が膨張し、ダイビング中に急浮上したのと同様に減圧症を発症してしまうのである。そのため、体内から窒素が抜けるまでのインターバルをしっかりと確保する必要があるのだ。
減圧症を発症しやすくなる間接的な誘因があることも忘れてはならない。体調不良を感じた時には、体調を優先することや、ダイビング前日の飲酒も控えめにした方がいいだろう。ダイビングを安全に楽しむためには、ルールをしっかりと守り、自己管理を行うことが重要なのだ。人間の住む世界とは違う、別世界を見学させてもらう訳だから、少し謙虚な気持ちになれば、難しくはないはずだ。1番危険なのは、初心者ダイバーではない。ダイビングに慣れてきて謙虚さを失ってしまったダイバーが注意しなくてはならないのだ。
最後に余談ではあるが、個人的な感想として、CAはダイバーが多い。また、興味のある者も多いように感じる。飛行機に乗った際は、CAから海の情報を入手するのもいいだろう。もし時間が許すならば、経験した海の世界を語り合ってみて欲しい。