前回に引き続き、宮古島のダイビングスポットを紹介しよう。今回は、初心者ダイバーでも、シニアダイバーでも安心して楽しめるポイントだ。もちろん、経験を積んだダイバーも未知の世界に心踊らされることになるだろう。
「興奮」と「驚き」と「笑い」という意味で、家族の心を鷲掴みにしたのが、『スネークホール』である。宮古島でも数少ない、水深約8mの岩に出来たエアードームである。ウミヘビが卵を産みにやってくることにちなんで『スネークホール』と名付けられたらしい。
短いトンネルを潜り抜けた先には、すぐに水面が待っていた。「あれ?ここ海中だよな?」「深度変わってないよな?」と不思議な感覚に家族皆が陥った。ガイドさんが、驚かそうと事前に余計なインフォメーションを与えないところが粋な計らいだ。不思議に思いながら、水面から顔を出すと、岩に取り囲まれた丸い大きな空洞が頭上に広がる。「え?息できる?」とわざわざレギュを取り外し、空気を吸い込んでみる。そして、本当に空気があるのか確かめるべく「あー、あー、あー」と意味をなさない言葉を家族全員が発する。すぐに普通に会話すればいいことに気付き、笑いが巻き起こる。おバカな家族である。大きな笑い声がしては、ドーム内に反響し、大きく響き渡った。それを聞いてまた笑いが起こる。不思議な光景と体験に興奮が収まらなかった。
ドームの中の水面がゆらゆらとテンポよく上下するのに合わせて、ドーム内に霧が発生した。おそらく、水面が上昇した際に、ドーム内の空気が圧縮され水蒸気になるのだろう。珍しい現象にただ、家族が皆、目を丸くした。「なんで?なんで?なんで?」と家族の誰かが言っていたような気がするが、目の前の光景に飲みこまれ、私は説明するのが面倒だったのを覚えている。ドーム内の空気が圧縮される訳だから、もちろん耳抜きがスムーズに出来ることが必須だ。頻回にしなくてはならない耳抜きに疲れてきた頃、ドームに進入してきた入口を振り返ると、太陽の光が差し込み、まさに青の洞窟が目の前に広がっていた。スネークホールはダイバー限定の青の洞窟としても知られているのだ。私は、最後尾につき、再潜行すると、家族一人一人が青い光に包まれて吸い込まれていくかのように見えた。乱舞するキンギョハナダイやアカネハナゴイに別れを告げ、スネークホールの興奮を後にした。
家族ダイビングのラストダイブを飾ったのが、八重干瀬エリアにある『エメラルドシティー』である。美しいダイビングポイントとして挙げるなら、私は1番に『エメラルドシティー』を挙げるだろう。ただ、嬉しくも悲しくも、このポイントはあまり知られていない。期間限定のダイビングポイントで、普段は潮の流れがとても速く、ダイビングすることが不可能なのだ。だからこそ、人間に侵されることなく、閉ざされた都はひっそりと、神秘的な美しさを保てることが出来ているのかもしれない。
水深7mの白く輝く砂の大地に、点在する色鮮やかな珊瑚。ウミガメに導かれるままに、龍宮城へ向かっている錯覚にさえ陥る。浅瀬をシュノーケリングで泳ぐ方が、珊瑚が綺麗に見えるという話もあるようだが、この全身で感じる浮遊感を味わいながら、花吹雪のように舞う魚達と一緒に泳ぐことができるダイビングとは大きな違いがある。そんな気持ちを実感しながら、優雅な海底散歩を満喫した。海から上がった家族から、口々に歓声が上がった。それぞれに満足感で満ち溢れていたのだろう。
ダイビングを始めて本当に良かったと、月日が流れた今でも心の底からそう思う。
まだ私の知らない喜びや楽しみ、人生が色鮮やかに、そして豊かになる可能性があるものならば、迷わず飛び込んでみたいと思う。ダイビングを始めたあの頃のように。