前回の『潜り方編』に引き続き、サイパン島のグロットを紹介しよう。今回は、グロットで起きた危険な体験を語ろう。
サイパン島グロットの注意点
グロットはダイビングの醍醐味が詰まったポイントではあるが、事故があったというネガティブな面もあることを忘れてはならない。前回語った116階段2m程の高さからのエントリーに加えて、水深がかなり深いという点がこのポイントを潜るにあたり知っておかなければならない。またエアの消費が早いため、残量チェックはこまめに行わなければならない。私は、1本のダイビングを終えた後でも十分残量がある方だったが、ダイビング仲間のバディがいつも残量ギリギリのことが多く、常に残量には気を付けていたつもりだった。しかし、ついにグロットで怖い体験をしてしまった。
エア切れ一人目
外洋を堪能した後、また洞窟へくぐりエントリーした天然プールに戻ることになった。私とバディはエア残量をチェックし、互いに報告しあった。バディのエア残量は、私のエア残量より少ないものの十分残量があることを確認した。その際、私とバディは水深33mくらいに位置していた。眼下に同じグループのおじ様の姿が見えて、ちょっと深すぎないか?大丈夫か?とふと思ったが、特に問題ない様子だったため、そのまま洞窟へ向かった。しばらく洞窟の中を移動し、もうすぐ天然プールだなと思っている頃、後方からフィンを掴まれ引き寄せられる感覚がした。引き寄せているのは、さっき眼下にいたおじ様だった。明らかに慌てている様子。背後から私のフィンから脚、BCDを掴み、私のオクトパスを手繰り寄せようとしている。おじ様はエア切れのサインを出す余裕は無かったが、すぐにエア切れだろうと理解した。慌てるおじ様の手が私のレギュレータに当たって外れそうになる。なんとかオクトパスを渡し、おじ様のBCDを掴んで安定させ、肩をさすったりしてみた。少しすると、マスクの中のおじ様の眼が落ち着いた様子に戻り、OKサインを出してきたので、そのまま二人で天然プールに向かった。天然プールに辿り着くと、私とおじ様の様子に気づいた女性ガイドさんが近づいてきて、私に「ここで安全停止して」と合図をくれ、おじ様は女性ガイドさんのオクトパスをもらい移動していった。
エア切れ二人目
グロットではエキジットする際、一人ずつフィンを脱いでから、岩の上にいるガイドさんにタンクを引っ張り上げてもらいながら岩をよじ登ることになる。そのため、通常より時間を要すること忘れてはならない。グループの一番後ろにいた私とバディは、安全停止をしながら自分達の順番待ちをしていた。すると、今度はバディがエア切れのサインを送ってきた。今回は冷静なオクトパスの受け渡し。浮上してエキジットの順番を待とうとバディに合図を送った時、バディの背後からさっきの女性ガイドさんが戻ってきた。私は、ほっと一安心し、「浮上します」と女性ガイドさんに合図を送った。すると、女性ガイドさんが、バディの口から私のオクトパスを取り上げ、残量0のバディのレギュレータをバディにくわえさせた。「ハアァアア?ええぇえ??」と思うのと同時に、私はバディに取られたオクトパスを再度渡し、バディは慌ててエア切れのサインを女性ガイドさんに送った。
エア切れ三人目は私
「殺す気か」というのが、陸に上がってからの私とバディの最初の一言だった。どうやら、女性ガイドさんは私たちがふざけていると思ったらしい。だとしても、せめて取り上げる前にサインで確認して欲しかった。後から、ショップのオーナーや女性ガイドさん、おじ様が謝りに来たが、私達も残量チェックをもっと頻繁にするべきだったと反省した。
そして帰りの登りの116階段。エア切れ・スタミナ切れ・気力切れの私。バディや例のおじ様にタンク類を全部持ってもらい、それでもギリギリで登りきることが出来た。色んな意味で忘れられない一本になった。ダイビングではセルフマネジメントは絶対だ。ある意味、車の運転と同じだと思ってもいいだろう。これを読んだ皆さんは、残量には十分注意してグロットを楽しんできて欲しい。帰りの登りの116階段はきついが、その分、感動も大きく、価値のある1本になること間違いなしだ。