プール講習も終えて、スキューバダイビング・・・-なんてリッチでセレブでゴージャスな遊び!
と、だけ思っていたい方はできれば、この後の内容に期待を棚上げして欲しい。
そうそう、そうだったよなあ。と思い出したいベテランダイバーさん、もしくは真剣にダイバーになりたい人だけに読んで欲しいと思う。
もちろん、ダイビングは最高に楽しくエキサイティングなスポーツである。
私の周りにはダイビングに取り付かれて、転職した人も多いし、そのままインストラクターとなり、日本だけではなく、世界の海にガイドとして活躍している友人も多い。
しかし、これだけは言っておきたい。
ダイビングは決して「キレイ」なものだけではない・・・。
学科も(なんとか)クリアした!プール講習は無事以上にクリアした、となれば、お次は海講習である。
念願の「海!」なのである。
これで私もダイバーだ!と喜んで参加した。
が、私の所属しているショップは、通常のファンダイビングと講習ダイバーも同じマイクロバスに乗って海まで行く。
集合時間は驚きの6時なのだ。
ダイビングポイントまで約3時間ほどかかるからである。
どきどきわくわくしながら、メイクもばっちり、日焼け対策もばっちり、もちろんファッションもばっちりでショップに到着して驚いた。
まず、ほとんどの人が「寝起き!?」と思われる状態。
女の子のほとんどもメイクはしていない。
男性に至ってはTシャツ、短パン、ビーサンのみ。女性も似たり寄ったりだ。
もしかして、ベッドからそのまま来ましたか?な格好で皆集まっている。
後々仲良くなる泉くんに至っては、長身を折り曲げるようにシートに陣取り、短パンビーサンなのは同じとして、なぜか香水だけがぷんぷんしている。
よくよく聞いてみれば二日酔いで今にも吐きそうだという。
つまり、酒の匂いを香水で誤魔化していたわけである。
最初は驚いていたが、1年もすればこのゆかいなダイビング仲間たちにすっかり馴染んでしまって、ついたあだ名が「わく姐さん」なのは余談。
かくして、なんとも場違いな格好の(どっちが?)一行を乗せたバスは、海へと走り出したのである。
初めての海講習は、なんとも気持ちの晴れないような曇天だった。
それは今でもよく覚えている。
「あーあ、新品の器材をこんな天気でかー」
と思ったからだ。
講習生は私と、友人同士らしき同年輩の男性2人の3人。
講師は皆からダンナと呼ばれる、ショップオーナーだった。
バスの中で、講習はダンナだと聞かされたときに、他の人達が
「ご愁傷様―」
「いじめられないでねー」
と口々に言われたのは、後々分かることなので、これは除外。
ビーチとはとても呼べないゴロタ(石ばかりの地面)の上で、プール講習で習ったセッティングの方法を一通りおさらい。
各種のサインの確認や、マスククリア、レギュレーターリカバリー(レギュレーターを口から外して、もう一度くわえなおすこと)なども行う。
そこから、よいしょ、と器材を背負って、いざ海に歩いていくのである。
この時あたりまでは優しかった(私の本性を知らなかった)ダンナが、
「女性だから途中まで器材は持っていってあげるね(にっこり)」
と言ってくれたのが、今思い出せば腹が立つばかり。
(その後、ダンナには散々な目に合わされるのだが、これも今は割愛)
思い出しても恥ずかしいくらいのよちよち歩きで、怖々と海に入って行き、えっちらおっちらフィンをなんとか履いて、腰の深さ辺りまで海に入ったときに、タンクとBC一式を受け取って背負った。
格好だけは立派なダイバーだ。
「ああ、やっとこれで私もダイバーになれるのね!」
と、ここではちょっと感動したものだ。
ダイビングを知らない人にはご存じないかもしれないが、実はウェットスーツだけで十分浮き輪くらいの浮力がある。
そのために、最初は目安として体重の1割のウェイトを装着する。
よく、ダイビングをしている、と話すと
「溺れるなよ」
と笑われるが、ダイビングでの第一の難関は、沈むこと、なのである。
BCジャケットは浮力調整ベストとも呼ばれる、いわば人工の「魚の浮き袋」のようなものなのだが、ウェットまで含めてフルセットで約20kgの重さがある。
それに更にタンクが約10kg。
これだけ装着していても、「沈むのが難しい」のだ。
それに更に体重の1割ほどのウェイトを付けても、最初はなかなか“沈まない”。
言い換えれば、それだけの重さでも浮かぶくらいの浮力がウェットスーツにはあるのだ。
とにもかくにも、沈まないと海講習は開始できない。
慣れれば問題なく沈めるようになるのだが、講習に参加した私他2名は、めでたくダンナに頭を押さえつけられて初の「潜行開始」となった。
今思い出しても恥ずかしい、水深約5mの戦いだった。
そう、やっと海底についた、と思ったら、隣の男性が、そのまますーっと浮かんでしまい、ダンナが再び沈めに向かったからだ。
ダイバーがダイバーとしてダイビングを始めることは中々長い道のりがあるのである。