何かとコストのかかるダイビング。できればウェット1本で通年潜ってドライスーツを作りたくない、というのは初心者ならではの考えだと思う。私も同じように考えていた。しかし、大失敗を経験した結果、ドライスーツを作ることを決断した。その笑えるような失敗談から、ドライスーツの必要性を考えてもらいたい。
ドライスーツなど不要!そんなことを考えていた時代もありました
「海を肌で感じてからこそのダイビング。ドライスーツなど甘え!」と、訳のわからない理屈を唱えていたのは初心者のころの私だ。
最初の1年はそんな理由でドライスーツを作ることを拒否していた。しかし、かなり早い段階で、その考えが甘かったことを実際に体験してしまった。
日本の海で通年潜ることを考える場合、ドライスーツは絶対に必要と言いたい。
これは個人的な感覚なのだが、およそ水温20℃がウェットとドライの境目だと思っている。しかし、この水温20℃以上というのは、日本の海ではほんのわずかな夏場の期間だけ。梅雨時は天候も悪く、水温も低いため、ウェットでは長時間のダイビングは寒さとの戦いになり、かなりのストレスになる。これも、ドライスーツを実際に使用するようになってから感じたことなのだが、とにかく日本の海で年間を通してコンスタントに潜ろうと思ったら、ドライは必需品なのだ。
実際に痛い目にあったお馬鹿な体験談
とにかく最初の1年はウェットで通した。しかし、それが間違いだったのに気づくには、その1シーズンで十分だった。
港湾清掃&ごほうびボートダイブ、という美味しい企画にのって、鹿児島で潜った時のこと。時期は1月だったかと思う。水温は15℃前後。
最大水深7m程度の港の清掃ボランティアに参加し、元気にウェットでフル活動した。
周りはほとんどドライスーツだったのだが、清掃ボランティアに夢中になっている間は寒さを忘れていたし、活発に動いていたから体温も上がっていたのかもしれない。しかし、休憩後、お楽しみのボートダイビングにいざ!という時、私に異変が訪れた。
まず、頭が回らない。友人が話しかけているのはわかるが、返事が遅い。ガタガタと震えは来るし、唇も顔色も真っ青だったらしい。
そう、学科教習で習うヒートロス、からの軽いハイポサーミアを起こしたのだ。もちろんボートダイビングどころではない。皆が楽しくボートに乗るのを背中で見送りながら、マイクロバスの中で1人で着替えることになった。
しかし、一応防寒用に着ていたフードベストがどうしても脱げない。体に力が入らないので、肩から上に手が上がらないのだ。当然その状態でフードベストは顔を包んだ状態で固定されている。しかもキチキチなので呼吸もままならない。
「ああ、このまま、こんな(下着だけ)姿で倒れているのを発見されてしまうのか」
私は自分のその先の人生を一瞬あきらめた。もちろん回りにスタッフも誰もいないので、助けを求めることすらできない。
幸い、そんな恥ずかしい姿を人様の前に披露する前に、なんとかフードベストは脱げてくれたのだが、その時私は決心した。
「ドライスーツ、絶対作る」と。
ウェットとドライを上手に使い分けて四季の海を堪能
そうしてドライをGETしたわけなのだが、これがすこぶる快適なのだ。もちろん、ドライスーツでも手や顔は濡れてしまうし、冷たいことは冷たいのだが、ヒートロスなんてことにはならない。
とりあえず、丸1年はウェットで通し、中性浮力は取れた状態でドライデビューしたので、最初のドライの操作に少し手間取ったくらいですぐに慣れた。そして、「(そこまで)寒くない冬のダイビングの面白さ」を知った。
夏の賑やかな水中とは違い、冬のダイビングはなんともいえない静けさと透明感で一味違うのだ。
もちろん、夏の海も大好きなのだが、私は冬の海の静寂感がとても好きだ。夏場には味わえない格別さがある。
などと言いながら、ダイビング仲間と話したのは。「はたから見たら、冬の海に潜ってるなんて酔狂だよねえ」なのだが、これはこれでダイビングの楽しさとして、一度経験して欲しいと思う。