ダイビングオーシャンブルー

野生のイルカに癒される女二人旅!三宅島~後編~

前回に引き続き、三宅島の魅力を紹介しよう。

激情の恋の果て三宅島

少しだけ、三宅島の歴史について触れさせて欲しい。かつて三宅島は、流刑地であり、江戸時代に起こった絵島生島事件の引き金となった生島新五郎の墓がある。歌舞伎役者の生島新五郎が、江戸城大奥御年寄の絵島と情交があったことが引き金になり1400名が処罰された事件だ。簡単に言うと、イケメン役者と権力者の女が恋に落ち、このことが不純とされ、大勢の人が巻き添えを食らってしまったという話。少し前だが、仲間由紀恵主演の「大奥」という映画といえば、思い出す人も多いだろう。偶然通りかかった私と同僚は、墓の前で足を止めた。そして、墓の横に書かれていた生島新五郎が絵島を偲んでうたった歌を黙読した。「愛し合っているのに離れてしまうなんて。あ~わかる」と同僚は歌を眺めながら言った。いやいや、アナタ、最近、単に彼氏に振られただけですから、と心の中で思ったが言わなかった。言わなかったのに、勘のいい同僚は笑いながら私の腕を肘でドスドスと小突いた。女同士は、敵になることもあるが、時として戦友にもなる。互いに「新五郎の生まれ変わりに出逢おう宣言」をしてその場を離れた。興味のある人はダイビングのついでに少し立ち寄ってみるのもいいかもしれない。何かをあやかれるかも?しれない。

野生のイルカを追え

三宅島に訪れた最大の目的は、野生のイルカと泳ぐことだった。旅立つ前に、ダイビングでイルカと泳げないものかと、色々調べてみたが、イルカがダイバーの呼吸の泡や音を嫌がるという説もあり、ボンベ無しのスタイルで一緒に泳ぐスタイルのものがメジャーらしい。野生のイルカは、三宅島からボートで40分程の御蔵島の周辺に生息している。息継ぎのためにイルカが水面に上がってくるのをガイドさんが見つけ、ツアー客にホイッスルで合図をくれる。その合図と同時にボートから海に飛び込み、イルカと泳ぎ、イルカが去るとまたイルカの元へボートで移動し、繰り返し飛び込むというスタイルだ。笛の音で操られている人間の方が、水族館の調教されたイルカのようで、なんだか妙に可笑しかった。

野生のイルカと戯れる

海に飛び込んだ私と同僚の眼下に現れたのは、美しい隊列を組んだ10頭以上のイルカ達だった。隊列を組んでいたかと思うと、隊列を崩し、イルカ達がそれぞれにはしゃいぎだす。手を伸ばせば、届きそうになるくらいの位置まで寄ってきては、去っていく思わせぶりなイルカもいた。野生のイルカは、水族館で見る可愛いイルカとは明らかに違い、どこか野性味を帯びた荒々しい雰囲気を醸し出していた。同僚に続き、私も大きく息を吸い込み、同僚の後を追った。3mくらい潜ると、1頭のイルカが私達の近くへやってきて、二人の周りをグルグルと泳ぎ始めた。野生のイルカは「ねえねえ、遊ぼうよ」ではなく、「ねえちゃん達、遊んでやるゼ」という印象だったが、おバカな女二人はその野生のイルカにすっかり心を奪われてしまった。息の続くまで、そのイルカと戯れた後、私達はそのイルカを「新五郎」と名付けた。その後、私達は寄ってくるイルカを全て「新五郎」と呼んだ。

バイバイ御蔵島、バイバイ三宅島

最後の「新五郎」とお別れした後、三宅島へ向かうボートの上で、「新五郎の生まれ変わりがイルカだったことを想定してなかったな」などとおバカな話をしていると、ふと同僚が「このままの気分で東京に帰りたいな」と言った。私は、午後のダイビングをキャンセルしたいのだとすぐに察し、「いいよ!予約はキャンセルしよう」と即答した。特に疲れていたわけでもないし、ダイビングの本数は1本でも稼ぎたいお年頃だったが、私も不思議と同僚と同じ気分だった。
 三宅島は、飾り過ぎない村々も、天然記念物のアカコッコの鳴き声も、私達を優しく包んでくれた。仕事で疲れた身体も心も、同僚の傷心も癒され、私達は日常生活に戻った。ダイビングが常に主役になる旅を繰り返していた私だったが、脇役として活躍する旅も、なかなか良いものだと思わせてくれる、三宅島はそんな素敵な島だった。