今回は、私がダイビングに慣れてきて、少し調子に乗ってきた頃の話をしよう。私の事例を参考に、皆さんは是非気を付けて頂きたい。
ダイビングの一番危険な時期
大阪から車で約3時間半。本州最南端の潮岬にある串本に訪れた時の話だ。串本は関西人のダイバーなら慣れ親しんでいる人も多いかもしれない。東京ならば、伊豆にでかけるような感覚だ。私は東京から大阪に引っ越ししてから、串本に気軽な日帰りダイビングを楽しむようになっていた。近場とはいえ、テーブルサンゴの群生や、生息している熱帯魚やアオウミガメを堪能することができる。友人に誘われて頻回に出かけていたため、串本という場所にも、ダイビングスポットにも、かなり慣れてしまっていた。
皆さんは、ダイビングの一番危険な時期をご存知だろうか。危険なのは、決して初心者ではない。スキルをはじめ、いろんな意味で慣れだしてきた頃が一番危険なのだ。
ダイビングのマイブーム“すり抜けの術”
私は、ダイビングの中でも地形を見るのが好きで、洞窟や狭いところを通り抜けるのが大好きである。海の中では、中性浮力を自在に操り、色んな体勢で景色を楽しむことができる。串本のダイビングでも狭い岩の切れ目をわざわざ通ることが、マイブームになっていた。タンクやウエットスーツが岩に触れないようにしながら、ガイドさんのコースと大きく外れることはない程度に、少しだけ寄り道。そんな時だった。海の中にいるにもかかわらず、何か聞き慣れない大きな異音。
ドスッ、ドスッ、ドスッッ
音を確認した直後、腕に激痛が走る。すぐさま、激痛のする右腕を見ると、30cmくらいの黒い3本の棒が右腕から飛び出ていた。岩陰に目をやると、岩の隙間に黒いトゲトゲがいっぱいついた大きなガンガゼがびっしり詰まっていた。気を付けていたはずだったが、死角で見えていないガンガゼがいたのだ。ガンガゼのトゲは5mmのウエットスーツと皮膚を貫通し、右肘の骨で止まっていた。
“すり抜けの術”失敗なり。
右ひじに黒く長いトゲを3本ぶら下げたまま、抜いていいものかをガイドさんに聞きに近づいた。ガイドさんは、最初、その異様な物体3本を何か理解できない様子だった。確かに、ガイドさんは、ガンガゼの密集地帯の狭い場所などコース取りしていない。自分が悪いとしか言いようがない。ガイドさんにトゲを抜いてもらったが、その後のダイビングは痛くて、痛くて、ダイビングどころではなかった。
ガンガゼの刑の応急処置
腕の傷は2ヶ月間痛みが続いた。肘の関節にも刺さっていたため、肘の曲げ伸ばしをする度に痛んだ。ガンガゼはウニの仲間で長いトゲが特徴的である。ダイバーなら一度は目にしたことはあるだろう。見た目にも、いかにも危険と知らせてくれている親切な奴だ。ガンガゼのトゲには毒があるらしく、刺されると強い痛みがおこり腫れあがる。その上、トゲがノコギリの歯になっているので抜けにくいらしい。本来なら、トゲを抜いた後、真水で洗ってから40~45度のお湯につけるといいらしい。私は、放置して自力で治してしまったが、化膿することもあるらしいので、病院でトゲが体内に残っていないかを確認してもらい抗生物質軟膏を塗るのが適切な処置だ。
ガンガゼの刑は本当に辛い。海の中では謙虚に振る舞わなければいけないと再確認させられた出来事だった。ちなみに、それからの私は、海の中でガンガゼを見かけると「お前、また刺してやるぞ」と言われているような気がして、怖くて近づけない。