水中には珍しい魚や、きれいなサンゴ、そして食卓で見る魚などもいる。水族館ではガラス越しでしか見ることができないこれらの生物に触れてみたいというのは普通の感情だ。だが、ダイバーが皆水中の生物に触ってしまうと大変なことになりかねない。ダイビング中は生物には触れてはいけないというのは鉄則だ。ここではその理由についてまとめてみた。
毒のある生物がいる
数年前にダイビングショップの店員がオコゼに刺されて死亡したニュースは記憶に新しいだろう。その他にもミノカサゴやウミヘビ、ゴンズイ、ウツボ、クラゲなどは、ダイビング中によく見る生き物だが毒があり嚙まれたり刺されたりすると最悪の場合は死に至ることがある。ビーチでは素足で歩かない、水中では肌の露出をなるべく少なくする、など注意が必要だ。本来これらの生物は臆病で用心深いので身の危険を感じない限り襲ってこない。ダイビング中は岩の隙間に不用心に手を入れない、海底にフィンをつかない、などに気を付けて刺激しないようにしよう。
意外に思うかもしれないが、かわいらしく見えるクマノミは実は獰猛だ。産卵時期は気が立っているので手を差し出したりすると指先をかまれてしまうことがある。意外に牙は鋭く、大きい個体になると指先の肉を食いちぎることもできるので遠くから見守るだけにしておこう。
生態系を崩しかねない
岩をひっくり返してエビやウミウシを探したりするダイバーを見かけるが、これも実はよくない。せっかく隠れていたのに他の捕食者に見つかり食べられてしまう危険がある。またフィンで砂を巻き上げたら魚が寄ってくるので面白くて何度もやってしまいがちだが、これは砂の中にいた微生物が海中に巻き上げられ、それを目当てに魚がやってきているのだ。
ウミウシをつついたり、寄ってくる魚を触ったりして傷つけてしまうとそこから寄生虫が入り込みその命を奪いかねない。コウイカの赤ちゃんが必死に海藻の中に隠れているのを追いかけたりしていないだろうか?こちらは遊びでも、海の生き物たちは必死だ。たった一人のダイバーがする分には大きな問題ではないのかもしれないが、ダイバー全員がそう思っていると海の中はいったいどうなってしまうだろうか?一人一人が自覚をもって環境を壊さないよう配慮したい。
漁協との折り合い
行きつけのダイビングショップの店長から聞いたのだが、海底に袋を持って入ったり、ナイフを見えるところに括り付けておくと漁協の人から注意されることがあるそうだ。密猟をしているのではないかと疑われてしまうとのこと。そのため、袋などはなるべくぶら下げないで欲しいとのことだった。マナーの悪いダイバーが、サザエやウニやイセエビなどをBCに隠して持ち帰ったりすることもあって、漁協の人に漁港の使用禁止を言い渡されてしまったこともあるそうだ。ボートダイビングは停泊はもちろん、漁港の駐車場やトイレ、休憩所を使用させてもらうことも多く、漁協とよい関係を築いていないとダイビングは行えない。沖縄ならヨットハーバーなどもあるが、本州でダイビングをするとどうしても漁港を使うことが多くなるので漁協の印象は大切だ。漁師の中には潜水器具を付けて漁をしたり、ダイビングそのものが趣味の人もいるのである意味「監視」されていることもある。普段から漁業権に抵触しそうなことや、疑われる行為自体を避けるべきだ。趣味のフィールドをダイバー自身が狭めないためにも注意したい。
ダイビングは自然を相手にするレジャーだ。海を感じ、生命を感じ、感動を味わえる。自然には逆らわず敬意を払っていきたい。だが、ダイビング自体が小さな環境破壊ということはダイバーは少なからず自覚すべきことだ。だからこそ、小さなことから注意して少しでも海を大切にしていきたいものだ。